「OUT」や村野ミロシリーズなど現代女性の生を描く桐野夏生の、東電OL殺人事件をベースにした作品。泉鏡花文学賞受賞作。
その美貌ゆえ男性遍歴を重ねるユリコ。競争意識丸出しで階級社会に溶け込もうとする和恵。やがて同じQ女子高にいたユリコと和恵は娼婦となり殺さる。妹ユリコに憎悪を抱いていた「わたし」の語りを中心に描く。
出版社:文藝春秋(文春文庫)
正直、どんな感想を書いていいのかわからない。本作は確実に何かを心に打ち込んだのだが、言語化するのが難しい。僕個人の読後第一印象はそんなところだ。
ただ強く思ったのは、本作は「グロテスク」というタイトルにふさわしい作品だったといった点である。本作は実に恐ろしく生々しく、人間の、主に女性の暗部を徹底的に突き詰めた話であった。
語り手の「わたし」にはユリコという美貌の妹がいて、その妹や他者に対する悪意を語り始める。
目を引くのは彼女が在籍しているQ女子高の生々しいくらいの悪意の描き方だ。他者を徹底的に差別する生徒たちの姿、その人間のもつ醜さに対する描きこみが実に丹念である。
その中で生き抜くには人はどうすればいいのだろう。
たとえば、ミツルは勉強することを武器とし、「わたし」は悪意を武器にしようと試みている。だが「わたし」に関しては、僕個人の印象から言うと、自分を格好よく言っただけでしかないという風に思った。語り手である彼女は可能な限りそのことを隠そうとはしているが、現実にはコンプレックスの塊で、ひがみを抱えて生きている弱い女でしかないからだ。
本作は「わたし」以外にも、真実を隠そうとしている語り手が登場する。あるいはそういった悪意に満ちた階級社会の前では人は嘘をつくことでしか、身を守ることができないという事実の裏返しなのかもしれない。
さて、本作のある意味、メインと言える部分は和恵かもしれない。彼女にはほかに選択肢はなかったのだろうかと読んでいる最中何度も感じた。
必死で差別されている感覚から逃げようと思っても、彼女は決して他者の視線を獲得できていない。そんな和恵の姿は、最後の手記ではないけれど、可哀想としか言いようがないものがあった。
排除され、そこから抜け出そうと彼女なりの方法を取ったものの、その過程で致命的にバランスを崩してしまう。それでも大抵の人はもっとニュートラルな立場を獲得することだってできたはずだ。
しかし和恵に関してはそれができなかった。そこには悲壮さも滑稽さも越えた絶望的な姿しか見えない。
そしてそれゆえに読み手の側も、和恵の、そしてその他の女たちの姿に、重々しいとしか言いようのない何かを見出すのである。
何かまとまりを欠いてしまったが、この作品は実に優れた作品だ。桐野夏生のベストとは思わないけれど、ベターな作品である。一読の価値はあるだろう。
評価:★★★★(満点は★★★★★)
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